医療データベース研究④(結果報告:上気道感染)
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医療データベース自主研究報告続きです。
本稿では観察結果(上気道感染)について報告します。(前回まで)
医療データベース研究①(データベース)
医療データベース研究②(研究の概要)
医療データベース研究③(結果報告:尿路感染)観察対象の症例構成を右図に示します。
対象薬剤を使用していた患者数66,536名から
単剤処方患者へ絞込み、観察選択前に尿路感染と診断されている患者の除外などを実施し、
解析対象患者数は11,408名となりました。前稿同様
単剤処方だけではなく、
併用患者の解析も必要であろうという認識もありましたが、
今回は初回であり、ステップを踏むということで、
より解析のしやすい手法を選択しました。記述統計によるテーブル(左図)です。
2つの集団の変数を比較する時には検定を行います。
各項目の分布特性も鑑みて、
年齢・HbA1cはマンホイットニーのU検定を、
性別・糖尿病重症度はフィッシャーの正確確率検定を用いました。
検定の結果、
赤文字となっているところが有意差があるところです。
リスクが出たとしても要因がココにあると考えられる候補となります。また、観察対象症例における年齢の分布を
右図のようにまとめています。
・SGKT2阻害薬は40,50歳代にピーク
・他薬剤は50,60歳代にピーク
といった特徴がありました。尿路感染と同じ傾向です。
80,90歳代はデータがありませんでした。以上が、記述統計における分析です。
以下より愈々”上気道感染”の発現に関しての解析を報告します。薬剤別による発現率の比較テーブルが右図です。
それぞれの症例数から合計の観察期間を計算し、
リスク人年を割り出し、比較しています。
リスク人年は観察人年100人年当たりの罹患者数を
計算して出しています。このテーブルだけを見てみると
特に有意差があるとは言えません。さらに多変量Cox比例ハザードモデルによる回帰分析も実施しました。
右のテーブルがその結果です。
発現率が30%もあり、ベースが高い状況だと言えます。このテーブルだけを見てみると
特に有意差があるとは言えません。【考察1(と追加解析にむけて)】
上気道感染では30%近い割合で発現しており、ベースの高さが見られます。
糖尿病の患者において感染率が高いことは定説ですが、ベースとなる感染率が高いと、
薬剤間の比較が困難となる可能性があります。
現状ですと薬剤間比較で有意な差がないと言えます。そこで、各症例での観察期間が⻑いことで、偶発的に起こる感染の確率が高まるのではないか、との考えから、
各症例の観察期間を”最⻑で6か月”とした追加解析を実施することにしました。DPP-4の免疫抑制は薬理作用として発現するため、
最⻑で6か月もの観察期間で十分と考えられることも背景にあります。また、観察期間設定時の課題についても考察できるだろうという期待もありました。
投与薬剤別の発現率を計算し、右テーブルのようにまとめました。
観察期間平均は(当たり前ですが)減りましたが、人年法では24ヶ月と比較して変わりがありません。
また、薬剤間の観察期間平均のバラツキは24ヶ月より小さくなっていて、
薬剤間の違いがこちらも無いことがわかりました。また、観察期間の24ヶ月と6ヶ月を比較できるように
多変量Coxハザード回帰分析を行い、右図テーブルのように整理をしています。発現率は期間短縮に伴い、10%程度と大きく減りましたが
(但し、上記の通り人年法での比較では差はなし)
ハザード比では差はありませんでした。尿路感染と異なり、上気道感染では、薬剤間における差は無いことが示唆されます。
次回では、全体の考察とオプション解析について報告します。
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