「JADERを用いたデータマイニング(主に不均衡分析によるシグナル検出)の研究発表の際に留意すべきチェックリスト」について
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2012年にJADER(Japanese Adverse Drug Event Report database)が公開されて以降、学会発表や論文投稿で多く活用されています。
研究に活用する際は、SRSデータにおける過少報告や分母情報の欠如、バイアスの影響などの限界特徴を十分に理解し、留意した上で利用する必要があると広く言われています。
しかしながら、これらの限界について考慮されていない研究が増えており、中には誤った認識によって本来は言えないはずの結論が導き出されているという指摘の声も上がっています。
このような背景から、一般社団法人 日本医薬品情報学会 平成29年度課題研究班において、「JADERを用いた研究発表の際に留意すべきチェックリスト」が作成され、研究の際に活用することを強く推奨されています。また、本報告は日本薬剤疫学会誌において「自発報告デーテベースの活用の可能性と留意点」という特集企画においても概説されており、その中では、学会や論文で発表された内容は広く社会に発信され、場合によっては医療現場における意思決定にも影響を与えることから注意が必要であると述べられています。
この点は研究のゴールにつながる重要な視点であると感じたため、本ブログにおいて、2つの文献を基にチェックリストについてご紹介させて頂きます。【参考・引用文献】
1.JADERを用いた研究発表の際に留意すべきチェックリストの提案(Jpn J Pharmacoepidemiol, 25(2) July 2020)
2.日本の有害事象報告データベース(JADER)を用いた研究におけるチェックリストの作成と実態調査(Jpn. J. Drug Inform., 22(1): 7~16 (2020))<チェックリストの概要>
本チェックリストは、“CIOMS Working Group Ⅷ報告 ファーマコビジランスにおけるシグナル検出の実践”を参照にしていることから、SRS全般で共通する留意点にJADER特有の事項が追加されています。
✔ JADERを利用したデータマイニング(主に不均衡分析によるシグナル検出)を行う際に、前提として理解が必要な5つのポイントが記載されています。
(①研究材料としての妥当性、②解析の妥当性、③結果の解釈の妥当性、④JADERの特徴の考慮、⑤解析手法)✔ チェック項目は全部で17項目あります。
そのうち、全ての研究でチェックされることが望ましい事項として12項目、必ずしも行う必要はないが考慮することが望まれる事項として5項目が記載されています。
※チェック項目は以下参照。チェック内容の詳細については、参考・引用文献をご確認ください。<JADERを用いた学術論文の実態調査>
チェックリストの作成者らは、本チェックリストをもとに、システマティックレビューによりJADERを用いた学術論文の実態調査を行いました。その中で、チェックリストの要件を満たしている充足率が低かった項目とその状況を中心に項目の詳細をご紹介します。
「適切なMedDRA」(充足率:15%)
要件を満たしていなかった事例としては以下のような事例が紹介されています。
・研究に使用されたJADERとMedDRA/Jのバージョンが不一致と考えられる報告が認められた。
・MedDRAバージョンの記載の有無に関するチェック項目である「MedDRAの記載」の充足率は62%だが、そのうち「適切なMedDRA」の充足率は25%だった。MedDRAは定期的に更新されており、JADERで対応しているMedDRAのバージョンも併せて更新されています。
そのため、用いる辞書とデータセットのバージョンの不一致により、解析がうまく行えない可能性がある点が注意として挙げられていました。
また、解析結果の再現性の観点から、使用したMedDRAのバージョンを記載することについて、「再現性の確保」のチェック項目に含まれています。「シグナル検出の位置づけ」(充足率:44%)
要件を満たしていなかった事例としては以下のような事例が紹介されています。
・科学的背景や目的・仮説が不明確なものや、シグナル検出の位置づけを理解せずに検討課題が設定されていると考えられるものが見受けられた。本項目と「JADER妥当性」のチェック項目は、研究の目的に対して、JADERを用いることが妥当であるかを評価する項目として設定されており、研究の最初の段階で確認が必要な項目になります。
シグナル検出は、未知の医薬品と有害事象の関連を検討するものであり、仮説生成を主とした目的となる点を留意の上、研究を進めることが大事であると紹介されていました。「他のデータからの検討」(充足率:69%)
要件を満たしていなかった事例としては以下のような事例が紹介されています。
・シグナルが検出された場合、他のデータと合わせて薬剤と有害事象の因果関係について考察が必要だが、十分な検討が行われておらず、シグナルが検出されたことのみで医薬品と有害事象の関連性が明らかというような報告が見受けられた。シグナル検出はあくまで仮説生成を目的としているため、医薬品と有害事象の因果関係を判断するには、他のデータなどを用いて、さらなる検討・考察が必要となります。
「重篤有害事象」(充足率:69%)
本項目はJADER特有のチェック項目となります。
JADERは、主に重篤な有害事象が集積されています。一方、非重篤の有害事象については、二次的に合併したものなどとして集積されている可能性があります。
そのため、重篤でない有害事象を対象とする場合、誤った解釈を導く可能性があるという点を考慮する必要があるため、設定された項目になります。また、従属率は高いものの、チェック項目を満たさないことにより、最も医療現場での意思決定に影響を与える可能性がある項目として、以下の2つの項目が重要になることが紹介されていました。
「不均衡値を比較しない」
「リスク定量化でない」不均衡計算値であるRORなどは、自発報告内での報告割合の方よりを表しているものであり、関心のある医薬品と有害事象のリスクを定量的に表しているものではないため、RORの比較によるリスク定量に用いることはできない点、注意が必要であるとされていました。
この点については、CIOMS Ⅷにおいても警鐘がならされており、注意が必要です。本文献より、規制当局・製薬企業におけるシグナル検出に関する取扱いは整備されている一方で、研究者が自発報告データベースを利用する際のガイダンスが整備されていない現状を知りました。
また、研究者における研究結果の発表は、規制当局・製薬企業のシグナル検出の活用とは性質が異なり、医療現場での意思決定に影響を及ぼし、ひいては患者の不利益にもつながる可能性があることを改めて認識しました。
より良い研究のために、私たち自身も本チェックリストを理解・活用していくとともに、JADERを利用する研究において広く活用されていけばと思います。 -
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