医療データベース研究③(観察結果:尿路感染)
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医療データベース自主研究報告続きです。
本稿では観察結果(尿路感染)について報告します。まずは尿路感染の結果から報告します。
症例構成は右図のようになっており、
対象薬剤を使用していた患者数66,536名から
単剤処方患者へ絞込み、観察選択前に尿路感染と診断されている患者の除外などを実施し、
解析対象患者数は22,330名となりました。単剤処方だけではなく、
併用患者の解析も必要であろうという認識もありましたが、
今回は初回であり、ステップを踏むということで、
より解析のしやすい手法を選択しました。記述統計によるテーブル(左図)です。
2つの集団の変数を比較する時には検定を行います。
各項目の分布特性も鑑みて、
年齢・HbA1cはマンホイットニーのU検定を、
性別・糖尿病重症度はフィッシャーの正確確率検定を用いました。
検定の結果、
赤文字となっているところが有意差があるところです。
リスクが出たとしても要因がココにあると考えられる候補となりますので要注意です。また、観察対象症例における年齢の分布を
右図のようにまとめています。
・SGLT2阻害薬は40,50歳代にピーク
・他薬剤は50,60歳代にピーク
といった特徴がありました。
80,90歳代はデータがありませんでした。以上が、記述統計における分析です。
以下より愈々”尿路感染”の発現に関しての解析を報告します。薬剤別による発現率の比較テーブルが右図です。
それぞれの症例数から合計の観察期間を計算し、
リスク人年を割り出し、比較しています。
リスク人年は観察人年100人年当たりの罹患者数を
計算して出しています。このテーブルだけを見てみると
SGLT2阻害薬は他の薬剤それぞれと比べても
発現率が高いと言えます。さらに多変量Cox比例ハザードモデルによる回帰分析も実施しました。
右のテーブルがその結果です。
各薬剤のSGLT2阻害薬との比較でハザード比を見てもらうと分かる通り、
SGLT2阻害薬は他群に比べて有意に発現すると言えます。
また、性別では女性のほうが2倍近く発現しています。コックス比例ハザードモデルを採用した理由は下記です。
・時間の経過で発生する”イベント(副作用)”に対して、調査した複数の項目による影響を調査したい
・データの尺度や分布を問わない分析方法である
・時間の経過で発生するという時間的な要素を考慮している点でロジスティック回帰分析ではなく、こちらを採用
・観察打ち切りの時間を考慮したイベント有無に対して複数の項目の組み合わせで
イベント発生を早めているかどうかを調査する手法であること(ここまでで学んだ点)
結果を出す所は仕様(研究調査・解析方法)が固まればあとは解析用プログラムを流すだけなので
行ったり来たりはそんなにしていません。
ただし、解析段階においては、多少なりとも「解析用データの作り方」において時間をかけました。JMDCのデータ構成は、解析用データ構成も適切で、改良の余地はなく実際には変更していませんが、
診療ごとに並んでいる処方データ・傷病データ(経時データ)ということを忘れず意識して、
「どういった患者を除外するか」「どの時点を観察終了日とするか」などの条件で、
「解析用データの作り方」が複雑であったことは苦労した点です。患者年齢・性別・薬剤群・処方開始日・処方終了日・イベント発生日・イベント発生までの日数・その他プロフィール(HbA1c値、糖尿病重症度など)
を、1セットのデータとし、
性別・薬剤群などの、時間がたっても変わらない情報と、処方開始日やHbA1c値など、時間の要素がある情報を組み合わせています。他に
人年法を1年表記でするか、100年・1000年で表示するかなどは好みがあるかと思います。
実際、参加メンバーや解析実施者によってまちまちでした。観察期間の設定を細かくやってきたこともあり、
多変量の解析をCoxハザード分析にて行うことは違和感なくスムーズに決定しました。MIHARI-PJではアーカイブページにて多くの手法を採用しているのでそちらもご参考ください。
尿路感染については(併用剤の影響等更なる探索は必要だと思われますが)解釈もしやすい結果でした。
次回は観察結果(上気道感染)について報告します。
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