医療データベース研究⑥(オプション解析②、まとめ)
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医療データベース自主研究報告続きです。
本稿では【オプション解析②、まとめ】について報告します。(前回まで)
医療データベース研究①(データベース)
医療データベース研究②(研究の概要)
医療データベース研究③(結果報告:尿路感染)
医療データベース研究④(結果報告:上気道感染)
医療データベース研究⑤(全体考察とオプション解析①)オプション解析② 有害事象自発報告データベース
オプション解析としてJADERやFAERSといった
いわゆる自発報告データベース(SRS)を用いて比較を行いました。右図に参考までに各DBの情報をアップします。
数値は2018年2月時点のものとなります。それぞれのデータベースの特徴については下記の投稿記事も参考ください。
(過去記事)
DB構造について FAERS版
DB構造について JADER版
CzeekV Pro 機能紹介 データについて(お話版)比較の方法
今回、JMDCデータを解析した傷病名「尿路感染」を対象とするにあたって利用したコード「ICD-10」と、
SRS各DBで有害事象報告として用いられているMedDRAコードを比較できるように、ICD-10からMedDRA(PT)へ変換を行いました。
尿路感染のPTは全部で8種類あります。
この8種類のいずれかに該当するPTが各薬剤を用いて報告されている有害事象症例レポートに、
どれぐらい上がってきているのか?、またシグナル検出されているのか?を調査しました。具体的には例えば、
SGLT2阻害薬(3種類あります)では、
『全報告レポート数|PTを含むレポート数|シグナル検出数』を
JADER/FAERSそれぞれのDBでカウントしました。結果を下記します。
尿路感染
糖尿病薬−尿路感染のシグナルを解析しました。
右図にアップします。
各薬剤群の比較が出来るようにしています。
JADERでは症例レポート自体が少なく(発売日等の関係上)、
傾向が掴めるまでデータがないという印象でした。
一方、FAERSでは、
SGLT2阻害薬群において多くのPTでシグナルが検出されています。
この結果はJMDCデータの解析結果と似ています。上気道感染
糖尿病薬−上気道感染のシグナルを解析しました。
右図にアップします。
こちらも同様で、JADERでは症例レポート自体が少なく
傾向が掴めるまでデータがないという印象でした。
一方、FAERSでは、
DPP-4阻害薬群において若干数PTでシグナルが検出されています。
尿路感染ほどの差ではないですが、この結果はJMDCデータの解析結果と似ています。オプション解析②まとめ
有害事象報告データベースのうち、FAERSのような大規模なものを対象として解析した結果は
DB研究の結果と同様な傾向を確認することが出来ました。
・SGLT2阻害剤による尿路感染リスク(他糖尿病剤と比較してシグナルが多い)
・DPP-4阻害剤による上気道感染リスク(他糖尿病剤と比較してシグナルは少し多いがDB研究同様目立った差はない)一方、
JADERでは件数が少なく、傾向が掴めませんでした。これはDBの特性や特徴が影響しているかもしれません。
有害事象データベースの不均衡分析がどう役に立つのか?という議論が常に行われていますが、
本DB研究の結果と考察からも一石投じてみたいと思います。・大規模なFAERSによる解析がレセプトデータと同様の傾向を示している
(但し、単剤比較、本件での薬剤と疾病を対象として)
→通常のモニタリングに利用するDB、解析に活用するDBの使い分けなど・まだ十分な規模とは言えないJADER(かつ、重篤な情報に限られる)では
傾向が掴みきれない
→薬剤の発売時期、報告数によるDBの使い分けなど・臨床現場における参考ツール(参考DB)とその使い方と解釈について
→患者訴求症状(初期など)を元にした解析など
→副作用機序を考慮した薬剤の影響分析への発展などこれらをもとに研究結果がEBMへのサポートに繋がれば幸いです。
まとめ DB研究を実施しての所感
思い返せば、2017年度は色々な医療情報データベースを扱ってきました。
最初は、医療DBを用いた解析とはどんなもんぞや?というふゎっとした疑問から始まり、
まずは解析してみよう、という社内におけるチャレンジからスタートしたような気がします。
FARES・JADERをシステム(:CzeekV/R)に搭載して、簡単に解析を出来るようにした後、
不均衡分析だけでなく、更に医療DBを用いて多くの手法を経験値を積みながら
ベーシックなものから最新なものまでを網羅して疫学的観点から解析を進める素地を作るという共通ベクトルが生まれ始めた時に、
色々な報告を調査し始めしました。・薬剤疫学会におけるタスクフォースとして医療データベースがアーカイブ化され、
・PMDAにおけるMIHARI-PJでも医療DBを用いた解析スキームの探索を実施、報告され、
・論文でもDPC調査が報告されはじめ(NDBも報告対象となり)、NDBのサマリーが公開され、
・海外ではCPRDなどがメインで研究対象として多くの報告があがっており、
・国内ではMID-NETの利活用開始がもうすぐはじめるという流れもありました。各製薬企業への訪問時に「DB解析」という話題になると、
各社ともに困っており、また課題を強く認識し始めていたというような背景もありました。そこで、データベースベンダーとの協議から始まり、各種報告レポートの参照、論文探索なども経て、
改めてリサーチクエスチョンの設定を行いました。社内では並行して電子カルテ、処方薬歴解析、健康保険データ解析など様々なデータに触れる機会があり、
共同プロジェクトでの副作用情報収集・解析にも参画させていただきました。
そして、今回JMDC(別枠でMDV)も経験値をつけることが出来ました。
2017年度は社として進めたい方向にぴったりと合った良い機会に恵まれて本当に盛り沢山だったような感想です。
そのラストを飾るのがこの自主研究でした。
(他のプロジェクトでまだ継続しているものも多々ありますが)レセプトデータを対象とした自主研究では、「JMDCデータは使いやすく、単剤を対象としたこともあって、(SQLユーザとしては)解析作業に入ればスムーズに実施でき、計画段階でどれだけ細目に注意した上で観察定義を行えるか?」という所感でした。
「疫学研究においては”どれだけバイアスを除去できるか?”ということに尽きる」という、ある研究者の言にも近いのではないでしょうか?
実際その言葉が何度も頭をよぎりました。色んな医療情報データベースに触れるにつれ、その細目にも目を通して来ました。
ポリファーマシーや併用剤の選定・定義設計時、
イベント・アウトカムの定義でのICD-10(や、MedDRA、PTだけでなく、SMQなども)の設定時、
観察期間設定時、解析スキームの選定時、プログラミング時に、等など多岐に渡っての視点でもです。
基本的なところは社内にも知識ノウハウを整備できたのではないかと考えています。
それに伴い、解析目的/リサーチクエスチョンに合わせて解析用プログラムも徐々に整備出来てきています。そして、まだまだ調査、研究、チャレンジを続けたい項目も多数あります。
各プロジェクトで積み残した課題や、追加視点での研究項目もあります。
それらを2018年度は研究題目として進めていく所存です。予定ですが、
○2018年 第28回日本医療薬学会年会
○2018年 第24回日本薬剤疫学会学術総会における発表にむけて研究を進めています。
ちなみに、来週末6月30日・7月1日に三重県鈴鹿市で行われる
2018年 第21回日本医薬品情報学会総会・学術大会では、
共同研究者として参画しています。発表演題について一般演題(ポスター)
医療コミュニケーション・データベース研究
P-9 FAERSデータベースを用いた副腎皮質ステロイド剤間の急性膵炎発現リスクの比較
筆頭研究者 南郷 大輔(新百合ヶ丘総合病院、明治薬科大学薬学部薬物治療学教室)
昨今注目を受けているAIも含めて、本領域においては伸びしろが大きくありそうですね。
それに伴い、疫学/薬剤疫学の地位向上(何なら実臨床への貢献)が進めば幸いです。 -
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